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東京地方裁判所 平成6年(特わ)342号 判決

本店所在地

東京都渋谷区千駄ケ谷四丁目一九番一四号

株式会社明和商会

(右代表者代表取締役 南川清)

本籍

東京都世田谷区祖師谷五丁目六一七番地一五

住居

同都同区祖師谷五丁目三七番二一号

会社役員

南川清

昭和一一年一月一七日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官長島裕、弁護人鷹取信哉各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社明和商会を罰金九〇〇万円に、被告人南川清を懲役八月に処する。

被告人南川清に対し、この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社明和商会(以下「被告会社」という)は、東京都渋谷区千駄ケ谷四丁目一九番一四号に本店を置き、内装工事の請負施工等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人南川清(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空外注加工費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五八八五万八八二二円(別紙1の1及び2の修正損益計算書、修正製造原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成二年五月三〇日、東京都目黒区東山三丁目二四番地一三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二三七〇万二七五九円で、これに対する法人税額が八四九万五七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成六年押第五八三号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二二五五万八一〇〇円と右申告税額との差額一四〇六万二四〇〇円(別紙4の1のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六二三八万三五六三円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年五月三〇日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三三二一万五八九七円で、これに対する法人税額が一一五七万三七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二二五一万一七〇〇円と右申告税額との差額一〇九三万八〇〇〇円(別紙4の2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七三九二万七九一四円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年五月二九日、同都渋谷区宇田川町一番一〇号所在の所轄渋谷税務署において同税務署長に対し、その所得金額が三一〇八万八二二〇円で、これに対する法人税額が一〇六四万四五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二六七〇万九一〇〇円と右申告税額との差額一六〇六万四六〇〇円(別紙4の3のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書六通

一  石川皓、大沢卓二、鈴木保雄、石津豪勇、南川信吉、前芝功及び松澤宏道の検察官に対する各供述調書

一  登記官作成の登記簿謄本

一  大蔵事務官作成の外注加工費調査書、接待交際費調査書、雑費調査書、受取利息調査書、有価証券売買損益調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書、交際費等損金不算入額調査書及び事業税認定損調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書二通

判示第一及び第二の事実について

一  大蔵事務官作成の雑益調査書

判示第一の事実について

一  押収してある法人税確定申告書等一袋(平成六年押第五八三号の1)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の期末未成工事調査書

一  押収してある法人税確定申告書等一袋(前同押号の2)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の期首未成工事調査書、受取配当金調査書、支払利息調査書、未成工事当期認容調査書及び雑損調査書

一  押収してある法人税確定申告書等一袋(前同押号の3)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

判示第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項(第一の事実の罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)

2  被告人

判示第一ないし第三の各所為につき、法人税法一五九条一項(第一の事実の罰金刑については、前同)

二  刑種の選択

被告人につき、懲役刑

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第三の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

五  訴訟費用

刑訴法一八一条一項本文

(量刑の理由)

本件は、内装工事請負施工等を業とする被告会社の社長であった被告人が、会社の業績悪化等の不測の事態に備えたり、自己らの老後の生活資金に充てるための裏金を備蓄することを目的として脱税を企て、自ら多数の架空請求書等を作成したり、被告会社の下請業者等に依頼して架空・水増しの請求書等を作成させるなどして、架空・水増しの外注加工費を計上し、三事業年度にわたり、合計四一〇六万円余の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率は通算約五七パーセントに達している。このような脱税額、ほ脱率、犯行の計画性、態様等のほか、この種事案については一般予防の必要性が高いことにかんがみると、被告人及び被告会社の刑事責任には軽視を許されないものがあるといわなければならない。

他方、被告人は、国税局の強制査察を受けて以来、事実を認めて調査及び捜査に協力し、当公判廷において真摯な反省の態度を示していること、被告会社は、関係当局の指導に従い、本件三事業年度分の法人税を附帯税を含めて完納していること、被告人には前科前歴がないこと、被告人やその妻の健康状態など被告人及び被告会社のために有利に斟酌すべき事情も認められる。

当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金一二〇〇万円、被告人・懲役一〇月)

(裁判官 安廣文夫)

別紙1の1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1の2

修正製造原価報告書

〈省略〉

別紙2

修正損益計算書

〈省略〉

別紙3

修正損益計算書

〈省略〉

別紙4の1

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙4の2

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙4の3

ほ脱税額計算書

〈省略〉

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